大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(う)402号 判決

被告人 鏑木哲之助

〔抄 録〕

しかし本件記録並びに当審における事実の取調の結果によれば本件事故は被告人の業務上の過失に基くものと認めるのが相当である。即ち、被告人は当夜飲酒の上多少酩酊して本件自動車を運転し前記場所に差蒐つた際、当夜は雨まじりの雪降りで強い西乃至北西風が吹いている暗い夜ではあつたが前照燈の光で被害者秋山を前方約二十米の地点において発見し、且つその時被害者が酒に酔つてふらふらと道路略中央左側を自転車を走らせているのを認めこの儘進めば衝突の危険があると危惧していたことが認められる。そうして自動車運転の業務に従事するものは、このような場合には危険防止のため、即時著るしく減速して絶えず前方を注視して相手方の行動に注意し、警笛を鳴らして相手方に自己の運転する自動車の接近していることを警告し相手方を安全に自動車の進路から避譲させるか、或は相手方の不測の行動に備えて自己の運転する自動車の速力を極度に減じ或は急停車の措置をとる等衝突の危険を未然に防止する業務上の注意義務があるのに、被告人は前示のように被害者を認め衝突の危険があると危惧していたにも拘らず同人が道路中央左側を通行しておるのを見て道路右側一杯に寄り、行き違えば無事相手方と行違ができるものと軽信し警笛も鳴らさず従前の速度を低減もせずハンドルを右一杯に切つて、自転車の右側を通り過ぎようとしたところ、被害者が自転車のハンドルを左に切り、自動車の進路前方に出て来たため急遽停車措置を講じたが及ばず遂に被告人の運転していた自動車の前面相左寄りの部分に、被害者の乗つて来た前示自転車を略正面から衝突するに至らしめ同人に前頭骨粉砕骨折、前脳挫滅、両眼球脱出、鼻骨粉砕骨折等の傷害を負わせ前記前頭骨粉砕骨折、前脳挫滅の傷害により同人をして同年一月二十六日午前一時三十分頃旭市ロの千三百三十七番地佐々木外科医院において死亡するに至らしめたものと認めるのが相当である。

(谷中 坂間 荒川)

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